tumo.jpの和訳しすぎない翻訳

洋楽の歌詞を和訳しすぎないように翻訳してみました。

L-O-V-E を翻訳してみた Nat King Cole 1965

L-O-V-E について

アメリカのJazzシンガー Nat King Cole が1965年に発表した曲です。
歌詞はとてもシンプルなのですが、少し技巧的な部分もあって、そこに込められたメッセージが素敵だと思います。

作詞:Milt Gabler
作曲:Bert Kaempfert
© Wb Music Corp., Warner-tamerlane Publishing Corp.

www.youtube.com

翻訳の後に、解説(というか、なぜこう訳したかの言い訳)も載せているので、よかったら見てみてください。

日本語訳

L is for the way you look at me
O is for the only one I see
V is very, very extraordinary
E is even more than anyone that you adore can

"L"は君が僕をLookするということ (*1)
"O"は僕が見ているOnly Oneということ
"V"はVery Very 特別だよね
"E"は君が敬愛する誰よりもEven more than (*2)

 

Love is all that I can give to you
Love is more than just a game for two
Two in love can make it,
take my heart and please don't break it
Love was made for me and you

"Love"は僕が君に与えられるものの全て
"Love"は二人のgameなんかじゃない (*3)
Two in love (愛する二人)ならきっとやれるさ
僕のハートをつかんで、お願いだから壊さないで
"Love"は君と僕のために作られた言葉だったのさ

 

解説(というか言い訳)

*1: L is for the way you look at me

"L"は君が僕をLookするということ

さっそくで大変恐縮なのですが、1行目から誤訳があります。
結論から言うと、この日本語訳は"the way"の意味が落ちちゃっています。

「the way you look at me」は「君が僕を見る方法 -> 僕を見る君のまなざし」とか、普通そんな感じになります。たぶん。
しかし、私は「まなざし」という訳を採用しませんでした。

私はこの詩の1行目で一番大事なのは「L is for ... Look at me」の部分だと思っています。
この詩にとって、1行目の「L is for ...」と2行目の「O is for ...」はとても大事。これらが存在することで、詩全体のテーマが解説調に仕上がっているのです。
"L"とはこういうことで、"O"とはこういうことで、"Love"ってこういう言葉だよね...という感じ。

そうやってご機嫌に歌っているうちに、徐々にテンションが上がってきて
Two in love can make it
take my heart and please don't break it

と言って、ここだけ解説調を忘れます。テーマを逸脱して、自分のメッセージをガーンと伝えています。

愛する二人ならきっとやれるさ!
僕の手をつかんで、 さあ離さないで!

みたいな感じかな。笑

そして最後に少し冷静になり、もう一回解説調に戻って

Love was made for me and you
Love っていうのは君と僕のために作られた言葉だったんだよ

チャンチャンみたいな感じで終わる。
個人的に、この詩はそんな"テーマ"と"逸脱"が大事なのだと受け取っています。

大変長くなりましたが、そういったわけで1行目の歌詞は"the way"の部分の意味を意図的に落としました。
理由のまとめは以下の通りです。

  • 「L is for... Look at me」の意味を重視したかった
  • ここでの"the way"の意味はそんなに重要ではない(たぶん)
  • 日本語訳の方に"the way"的な意味を持つ言葉を差しはさむ余地がなかった

もっとも、もっといい訳文があるかもしれないとは思っていますが...。笑
この素敵な曲の雰囲気を、少しでも伝えることができていれば幸いです。

*2: E is even more than anyone that you adore can

"E"は君が敬愛する誰よりもEven more than

実は、ここも意図的な誤訳です。
「誰よりも」と「Even more than」で、「~より」という比較級的な意味が重複しています。 結論だけ簡単に言うと、ここは日本語の語感を重視して訳しました。

*1の解説でもお伝えした通り、この詩は「L is for...」「O is for...」の解説調が大事です。
つまり、ここの日本語訳には「"E"は ... Even more than」をそのまま使いたい。 しかし、訳としては「"E"は君が敬愛する誰よりも」で完結してしまっている。

そこで悩んだ挙句、エイっと「Even more than」を後ろにくっつけちゃいました。
別にそのせいで意味がわからなくなることはないと思うし、何より詩というものは「意味の正確さ」ではなく「言葉の広がり」が大切なものだから。

詩というものは、理解してほしいんじゃなくて想像してほしいのです。論文とか新聞記事ではないですからね。

そんなわけで、ここは「~より」という比較級的な意味が重複したとしても、強引に「Even more than」をくっつけた訳を採用しました。
まあ繰り返しになりますが、もっといい日本語訳があるかも、とも思っていますが...。笑

ちなみに、そもそもの原文である「anyone that you adore can」の部分も、正確には「anyone that you can adore」です。
ここで助動詞"can"と動詞"adore"が倒置している理由は、たぶん語感を重視しただけだと思います。

曲に合わせて歌ってみると、やっぱり「anyone that you can adore」よりも「anyone that you adore can」の方が響きがいいですよね。
以上、詩というものは意味の正確さよりも言葉の広がりの方が大事だよね、という主張でした。

*3: Love is more than just a game for two

"Love"は二人のgameなんかじゃない

ここは正直、詩の勢いを意識してかなり意訳しました。
普通に翻訳すると「Loveは二人の恋の駆け引きなんかよりもっと大きなもの」などとなると思います。

※参考
英語には「 "love game" 恋の駆け引き」的な意味があり、「 "I don't like playing a love game" 私は恋愛の駆け引きは好きじゃないの 」というような言い回しがあります。

ではなぜこのような訳を採用したのか、理由は以下の通りです。

  • gameに対する「恋の駆け引き」という訳は、この文脈では合わないと判断した
  • この一節は"love is more than (love) game"という文意が重要であると判断した
  • 日本語としてのすわりのよさを意識して「~よりもっと大きなもの」という訳文ではなく「~なんかじゃない(もっと大きなものだ)」という表現を採用した

まあ、ここの訳はかなり翻訳者の意思が強めに出てしまっているという自覚はあります。
(でも"Ticket to ride" => 涙の乗車券 よりはマシですよね笑)

さいごに

こんな感じで、今後も洋楽の歌詞を(和訳しすぎないように)翻訳しながら、"言葉"とか"翻訳"とか"人に何かを伝える"みたいなことに向き合っていこうと思います。
よかったらまた読んでください。

最後までお読みいただきありがとうございました。